あの日までの僕にとって生まれ育ったこの土地が世界の全てであり、 僕は定められた運命を受け入れて生きることだけを考えてきた。

僕の村では十年近く赤ん坊が生まれていない。
一番若い女性が三十二歳のアリナさんで、二人の子をもうけたが、 どちらも一歳の誕生日を迎えられなかった。

アリナさんは夫とも死別していたが、彼女だけが特別不幸というわけではない。
僕の村では誰しも身近に<死>が存在していた。

僕自身、五つの時に父を、八つで母を亡くしている。
そして、幼馴染のレネリア…… 彼女も一月前に死んだ。

レネリアの葬儀が終わると大人達が集まり、アリナさんと僕の婚約が決められた。
僕は村の最年少でもうすぐ十六歳になる。
十六の誕生日、アリナさんと結婚することになったのだ。

レネリアが生きていれば彼女と結婚するはずだったがそれは叶わなかった。
結婚する相手が変わったことに不満を抱いたり、 ましてや運命を呪うなどするなと、僕は自分に言い聞かせた。

子供ができなければ、近い将来、村は滅ぶ。
一番若い僕達が赤ん坊を授かることが、人々の〈最後の希望〉であることは十分承知している。
ただ、兄妹のように親しんだレネリアと二度と会えない悲しみが僕の心を満たしていた……