『トガビトノセンリツ』という物語について 

『トガビトノセンリツ』という物語について


和馬
「えー……とりあえずここは彩音先輩と千鶴担当な」

千鶴
「は〜い♪」

彩音
「べぼぁ〜」

和馬
「……この超不安かつ不安定な2人に何やらそーってんだ?」

みこと
「えーと、アンチョコによると、『トガビトノセンリツ』という物語そのものがどういう狙いで書かれ、どういうものを目指したかっていうことらしいよ」

エレナ
「アンチョコって古っ」


「お姉ちゃん、アンチョコって何?」


「いわゆるカンペのこと」

みこと
「ど、どーでもいいよね!? とにかくそういうこと!」

くるみ
「要するに、あとがきみたいなもんでしょ」

七緒
「作者の言い訳コーナーとも言いますね」

和馬
「いちいちギリギリな物言いしてんじゃねー」

彩音
「のぼぁぼぁ〜〜……」

和馬
「……案の定、使い物になんねーぞ」

亮也
「はい、先輩のやる気スイッチ(ポチッ)」

彩音
「――始めるとしよう」

七緒
「何をしたんです!?」

亮也
「これで5分くらいは大丈夫だ」

和馬
「そんなもんあるなら本編で使いやがれ!」

亮也
「ただし世界のどこかで500人くらいのかわいそうな人が生気を吸われて溶けて死ぬ」

和馬
「その怪異設定どこまでいくんだよ。つうかどんだけやる気のマイナスポイント高いんだよ」

千鶴
「ううん、色んな意味でギャグパートでしか使えないスペック♪」

征史郎
「そもそも一般的なやる気スイッチという語と意味合いが違うことは誰もツッコまないのか」





・『デスゲームもの』から逸脱した『トガビト』




和馬
「……おい、なんだそりゃ、いきなり不穏当じゃねーか」

征史郎
「ふむ。僕らがやらされたのは、疑いなくデスゲームだと思うが」

彩音
「良い指摘だー。『プリズナーゲーム』は参加者に命の奪い合いを強いるシステム。最低1人の犠牲を出さないと生き残れない。その点のみを見ればデスゲームと言える」

彩音
「が、『デスゲームもの』と一般的に呼ばれる作品とは、ジャンル的な意味でちょっと違うのだ」

千鶴
「あらら、どういうことかしら」

彩音
「さっき自分が挙げた通り、『最低1人の犠牲を出す』は、そのまま『1人だけに犠牲者を抑える方法がある』ということを意味する」

彩音
「更に、プリズナーゲームはその最低1人の犠牲者がその気になれば、一瞬でゲームを終わらせることができる」

七緒
「――つまり、デスゲームが『殺し合い』を狙うものであるならば、プリズナーゲームには『殺し合い』への強制力が低すぎる、と?」

彩音
「その通りだ向島君。そして本編では事実、『最低限の犠牲』で終わる可能性は充分あったわけだ」

和馬
「……」

亮也
「…………」


「………………」

エレナ
「あー、ソレちょっと思ったッスよ。あっしらが参加者だったから、あーいう結果になったんだろって」

彩音
「うむ、萩尾君の言う通りで、自分らがゴチャゴチャやったせいで、今回のゲームには数日間を要した」

彩音
「一方で、もし自分らが全員清廉潔白な自己犠牲精神の塊だった場合、異常に短く終わった可能性も考えられる。大体の場合、それは『デスゲームもの』において都合が悪い」

みこと
「都合が悪い……?」

彩音
「一般的なデスゲームものは、暴力知力両面の『闘争』や『殺し合い』そのものをエンターテインメントとして楽しませようという意図を含んでいる。作品内でも、作品外でもだ。例えばゲームの目的自体が『殺し合いを見たい大金持ちを集めて賭博』だった場合、すぐに終わってしまう可能性があるようなルール設定には問題がある」

亮也
「なるほど。それは作品を読んでいる側にも同じことが言えるわけですね」

彩音
「うむー。みんなゲームが一瞬で終わったら詰まらんだろう?」


「それを我々被害者の側から言うのはどーかとも思いますが……」

和馬
「……ま、待て、そうなると結論からして『トガビトノセンリツ』は問題がある作品だって話になんねーか」

征史郎
「話もなにも、そういうことだな」

和馬
「待てって! それ公式で言うことなのかよ!!」

彩音
「まー待て、確かに問題はあるが、それは『デスゲームもの』として見たときだ」

彩音
「そもそも、プリズナーゲームの設計意図は、我々の殺し合いを見て楽しむことではなかった。違うか?」

千鶴
「うーん♪ それには設計者に出て来てもらうのがいいんじゃないかしら?」

エレナ
「……」

七緒
「…………」

彩音
「うー、じゃあそうする……ただし著しいネタバレにつき、覆面で出てきてもらおう」


……
…………
………………


監獄長
『ハイハイ ソーユーワケデ黒幕デース キラキラーン』

和馬
「死ね」

くるみ
「死ね!」

エレナ
「死ねッス」

監獄長
『ヒッドーイ 竹井クントナンテ 後年アンナコトニマデ ナルノニー』

和馬
「あんなもん無効だクソが」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」

みこと
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」

監獄長
『ハイハイー げーむ内ノ恨ミハ 現実世界ニ持チ込マナイヨウニー」

くるみ
「……ここって本編に対する現実って扱いなの?」

亮也
「あの人はテキトーなこと言ってるだけだから気にしないでいいよ」

監獄長
『モー マアイイヤ えきせんとりっく☆彩音チャンガ言ウ通リ ぷりずなーげーむハ アナタタチノ殺シ合イヲ 見タクテ作ッタモノジャ ナイ』

監獄長
『……イヤ 見タイハ見タイケド ソレガ目的ジャナカッタナ 監獄長ドッチカッテイウト 直接殺スホウガ好キダシ』

征史郎
「監獄長、周りの怨恨の声で進行が困難になるので適当に抑えてください」

監獄長
『オット失礼 マア本編デモ言ッタケド ぷりずなーげーむハ アナタタチニササゲタ ぷれぜんと』

監獄長
『アナタタチ専用ノ アナタタチガ青春ヲ終エルノニ フサワシイ劇場』

監獄長
『――アナタタチガ育ンデキタ人格ヲ 因縁ヲ 呪イヲ輝カセ かたるしすニ満チタ 終幕ヲ迎エルタメノ 最後ノ舞台ダッタノヨ』

監獄長
『事実 アナタタチハ 輝イテイタワ アナタタチノ決意ヤ 悪意ヤ 後悔ヤ 無念サエ 輝イテイタ』

監獄長
『――アナタタチノ青春ハ アノ監獄ノ中デ トテモマブシク 輝イタノヨ』

監獄長
『ミンナ 素晴ラシイ悪夢ヲアリガトウ! トッテモ楽シカッタワ 個人的ニ!!』




七緒
「……えー、監獄長が数人からボコボコにされてるわけですが」

彩音
「ともかく、結論としては、『トガビトノセンリツ』は厳密な意味で『デスゲームもの』とは少し違う」

七緒
「じゃあなんて呼びます?」

彩音
「……『暗黒青春物語』なんてどーだ」

七緒
「ださっ! まあ確かにより正確かもとは思いますが」

征史郎
「この物語はデスゲームでの僕らの活躍を楽しむものじゃなく、各々の人生から導き出た勝利条件に対して、各々がどう向き合うか――その決断こそが主題だったと言えるわけだ」

彩音
「そう。勉強やスポーツの悩みをどうするか、恋愛のもつれをどうするか、進路をどうするか……そんなテーマにドラマを経て回答を出していく、青春小説と構造は同じだなー」

七緒
「……でも発売時に思いっきり『デスゲームもの』として売った気がするんですが」

征史郎
「それについては書いた奴が『発売後になんか違くねって気付いた』と言ってるようだが」

七緒
「ちょまっ!?」

征史郎
「『そもそも知り合い同士でデスゲームってテーマ2回連続だと違い出すために背景掘り下げるしかねーだろ諦めろ』などと極薄の水割りテキーラをあおりながらのたまっていた」

七緒
「……奴の水槽にメチル入れてきます」





・敗北を受け入れるということ




千鶴
「ううん、またうさん臭い主題が♪」

彩音
「本編を見た人なら分かるとおもうがー、『トガビトノセンリツ』は単純な勝利による終幕を迎えない」

和馬
「……まーな」

七緒
「それどころか、結局はプレイヤー側全員の敗北の物語に等しいのではないでしょうか」


「それが巷でときどき『鬱すぎる』『すっきりしない』等と言われる所以でしょーかねえ」


「お姉ちゃん、そんなの言っていいの?」

彩音
「うむー、雄ヶ原姉が奇しくも今言ったことがまさに主題となる」

彩音
「本作には前の作品と比べても多めの『敗北』や『挫折』が盛り込まれている」

エレナ
「なんでなんスかね」

征史郎
「『ディレTに“ヒロインを救えたかと思った直後に叩き落としてえげつなく殺すシーン入れろ”と言われたから』という作者の遺書がここにあるが」

和馬
「人のせいかよ」

彩音
「まーまー要するにだな、さっきの話とも関連するが、人間いつでも勝てるってわけじゃない。多くの人の想いが交差すれば、誰かが勝てば誰かが負けるようなことにもなる」

彩音
「本作では全員の勝利よりも、個々が個々の勝利を望み、ある者は望みを果たし、ある者は果たせない。そういったリアルさを大事にした結果、こうなったと言えるんじゃないかな」

彩音
「現実世界でも、現実の青春でも、人はいつか必ず敗北する。問題はそれをどう受け入れるか、であるから」

彩音
「――敗北を受け入れる人の姿には、ある種の美しさがある。それは鑑賞者にとっていつか通る道であり、味わうであろう辛酸であり、それでもなおかつ立ちあがって歩き始めなければならない彼ら彼女らにとっての光になり得るのである」

彩音
「そういう観点でこの物語を見ればきっとみんな新しいものが見えてくるんじゃないかなばばばばばば」

和馬
「おい壊れ始めたぞ」

みこと
「途中から口調も内容も先輩らしくなかったよね」

七緒
「……実はさっき奴を殺処分したとき、ぬめぬめした魂状のものが奴の体から西城先輩方面に漂っていくのを見たんですが」

征史郎
「まずい緊急浄霊が必要だ、各員レッツゴーフォーメーション」

くるみ
「なにそれ?!」





・まとめると




彩音
「まー鬱が好きなひと、鬱の数だけ強くなれるよーなひとに『トガビト』はオススメてことだなー……言霊……大陸棚……」

和馬
「あんだけ喋った割にシンプルな解答だな。つーかとうとうガス欠か」

千鶴
「ん〜、でもちょっとそれだと乱暴に過ぎるんじゃないかしら」

和馬
「どーゆーこった」

千鶴
「単に鬱にするだけなら、もっといくらでも書きようはあったはず」

千鶴
「あなたたちはあくまで、閉塞的な運命と戦った。そして、犠牲を払ったけれど、己の道を決めて歩き通したのよ」

千鶴
「……そのことは、きっと単なる鬱以外のものとして、読者さんの心に残ったんじゃないかしら」

エレナ
「鶴りん……」

くるみ
「センセー……」





「……えー、背後で空前の大暴動が起きてるんですが」

みこと
「間違いなく司会はミスキャストだよね!?」

征史郎
「ま、本編の補完として、こういうのも良かろう」

彩音
「きるぼぁ……」

『トガビトノセンリツ』という物語について 


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